
NOVEL 第1巻
コンティニューの代償は、あなたの記憶
君が僕を忘れるまで
発売中
見知らぬ街で死を迎えた少年・レイスは、少し前の時間へ戻る。白銀の髪の剣士フィアナとの出会いから始まる、命と記憶をめぐる物語。救いたいという願いは、やがてやり直しの代償に向き合うことになる。
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GATO JAPAN NOVELS
小説 全3巻
命と記憶をめぐる物語を、一冊ずつ。

NOVEL 第1巻
コンティニューの代償は、あなたの記憶
発売中
見知らぬ街で死を迎えた少年・レイスは、少し前の時間へ戻る。白銀の髪の剣士フィアナとの出会いから始まる、命と記憶をめぐる物語。救いたいという願いは、やがてやり直しの代償に向き合うことになる。

NOVEL 第2巻
コンティニューの代償は、あなたの記憶
発売予定
レイスと四人の仲間は、北街道で不可解な痕跡を追う。まだ経験していないはずの戦いで、なぜ互いの動きがわかるのか。失われた時間と、記録に残るものをめぐって、五人の旅は新たな問いへ進んでいく。

刊行情報・リンク確認:。GATO JAPAN 全作品の刊行予定
見知らぬ異世界で目を覚ました少年・レイス。理不尽な死の直後、彼は“少し前の時間”へ戻っていた。
白銀の髪の剣士フィアナ、記録魔術師ルナ、盾騎士グラン、斥候ノエル。四人と出会い、レイスはこの街で生きるために一歩ずつ進んでいく。
けれど、コンティニューには代償がある。やり直すたびに失われていくのは、大切な誰かと、彼を結んでいた記憶。
それでも、もう一度だけ。
君を救える未来があるなら。
ONE LIFE. MANY ATTEMPTS.
死の直後、時間はある地点まで巻き戻る。
知った情報だけは、レイスの中に残り続ける。
誰かを救うやり直しが、その人との記憶を失わせていく。
SAVE DATA IS NEVER FREE.
PEOPLE HE WANTS TO REMEMBER
カードを選ぶと、キャラクターシートを表示します。
LIFE / MEMORY / CHOICE
一度は間に合わなかった手を、もう一度伸ばす。やり直せる力と、生きるための選択。
Ⅰ覚えている人と、覚えていない人。同じ時間を過ごす五人の、少しずつ異なる思い。
Ⅱ剣、記録、盾、短剣。異なる役割を持つ仲間が、日々の言葉と行動で支え合う。
Ⅲ過去を取り戻したい願いと、目の前の相手の気持ち。レイスはその間で明日への一歩を探す。
ⅣA WORLD OF BROKEN TIME
剣と魔法、時計遺構、記録を残す記憶晶。鐘の響く街には、人の暮らしと、まだ解き明かされていない時間の仕組みが息づいている。
レイスだけが知っている昨日と、仲間たちが生きている今日。そのズレは、やがて世界そのものの秘密へつながっていく。
最初に死んだとき、レイス・クロフォードは、自分が死んだことに気づかなかった。
痛みより先に、音が消えたからだ。
石畳を打つ雨。崩れた鐘楼の上で回り続ける、針のない大時計。遠くで誰かが叫ぶ声。剣と剣がぶつかる甲高い響き。全部が一瞬で遠ざかり、最後に残ったのは、胸の奥を内側から押しつぶすような圧迫感だけだった。
視界の端で、青白い結晶が砕けた。
その破片の向こうに、白銀の髪の少女がいた。
「伏せて!」
間に合わなかった。
黒い槍のようなものが腹を貫いた。
自分のものとは思えないほど大量の血が、濡れた石畳へ流れていく。少女が何かを叫びながら駆け寄ってくる。青い目が大きく見開かれた。白と紺の外套。金の縁取り。右手には細身の剣。
知らない人だった。
知らない街だった。
なのに、レイスは妙に冷静だった。
――やっぱり、ここ、現実じゃないのかもしれない。
数分前まで、彼は別の世界にいた。
学校帰りの駅前。雨。赤信号。誰かが落とした透明なビニール傘が、風に転がっていた。そこまでは覚えている。次に目を開けたら、この街の路地裏で泥水に頬をつけていた。
スマートフォンはない。制服もない。
代わりに黒い長衣と革のベルト、腰には見覚えのない剣。首元には、ひびの入った銀色の懐中時計が下がっていた。
状況を理解する前に、獣のような影に追われ、角を曲がり、白銀の髪の少女と出会い、そして今、死にかけている。
「聞こえる? ねえ、名前は?」
少女の手が、レイスの頬に触れた。
温かかった。
その温度だけが、ありえないほど鮮明だった。
「……レイス」
なぜか、その名前が口から出た。
本来の自分の名前ではない。
けれど、ここではそれが自分の名前なのだと、記憶のない部分だけが知っているような感覚があった。
「レイス。大丈夫、まだ――」
「無理だと思う」
少女が息を呑んだ。
「そういうこと言わないで」
「じゃあ……名前、教えて」
自分でも、なぜそんなことを聞いたのかわからなかった。
死ぬ前に知る必要などない。
少女は唇を噛み、それでも答えた。
「フィアナ。フィアナ・ルクス」
「フィアナ」
「うん」
「覚えた」
彼女の表情が歪んだ。
「覚えなくていい。生きて、もう一度聞いて」
その言葉が、やけに悔しかった。
もう一度。
あるなら、そうしたかった。
胸元の懐中時計が、ひどく熱くなった。
割れたガラスの奥で止まっていた秒針が、ひとつだけ逆に動いた。
カチ、と。
そこで世界が消えた。
五人は朝食を済ませ、予定通り北西観測所へ向かった。
古い石畳は途中から草に埋まり、道の両側には青い花が増えていく。
花弁が半透明で、朝日を透かすと結晶のように光る。
「記憶草」
ルナが言った。
「名前、そのままなんだ」
「正確には《忘刻花》。でも俗称は記憶草です」
「触ると昔のこと思い出す?」
「触ると手が青くなります」
「だけ?」
「三日くらい落ちません」
「じゃあ触らない」
ノエルが一本摘んだ。
「聞いてた?」
「聞いてたから触った」
「何のために」
「レイスが嫌がるかなって」
ノエルが花を近づける。
レイスが避ける。
「やめろ」
「反応よし」
そのやり取りを見て、フィアナが笑う。
普通の朝だった。
レイスは、その普通さを壊したくなかった。
だから最初の異変に気づくのが遅れた。
道の先に、小さな荷車が倒れていた。
車輪が外れ、荷物が斜面に散らばっている。
近くに人影はない。
「止まって」
ノエルが片手を上げる。
全員が止まる。
グランが盾を前へ。
フィアナが剣の柄へ手を置く。
ルナは腰の記録晶を取り出す。
レイスだけ、一歩遅れた。
遅れたはずだった。
それなのに、次に起きることを身体が知っていた。
「伏せて!」
叫んだのはレイスではない。
フィアナだった。
彼女はレイスの襟を掴み、ほとんど投げるように地面へ引き倒した。
その頭上を、銀色の細い矢が通過する。
一本。
二本。
三本。
木の幹に刺さる。
遅れて、斜面の上から鐘骸獣が飛び出した。
「左二!」
レイスが叫ぶ。
フィアナはもう動いていた。
左へ二歩。
そこで剣を振る。
ちょうどそこへ獣の首が入ってくる。
一閃。
青黒い殻が割れた。
「後ろ!」
今度はフィアナが叫ぶ。
レイスも、考える前に右へ転がっていた。
背後の地面へ槍が刺さる。
見えていなかった。
けれど避けた。
グランが二体を盾で弾き、ノエルが木の上から短剣を落とす。ルナが記憶晶を起動し、獣の胸部に走る薄い線を指した。
「そこが核!」
フィアナが踏み込む。
レイスも同時に走った。
彼女が右。
自分が左。
説明していない。
合図もない。
なのに、互いの動きがわかる。
フィアナの剣が獣の注意を引き、レイスがその下へ潜る。
懐中時計の鎖を握ったまま、拾った石を核へ叩きつけた。
割れた。
獣が崩れる。
静かになった。
「記録することと、誰に開示するかは別問題です」
「研究者っぽい」
「研究者です」
フィアナが初めて少し笑った。
笑った顔を見て、レイスの胸が痛む。
この表情を、明日には知らない人の顔として見るかもしれない。
そう考えた自分が嫌だった。
今の彼女を、未来の喪失として見るのは違う。
「写真、撮る?」
ノエルが急に言った。
「何で」
「今の五人」
「六人です」
ミラが厨房から言う。
「入る?」
「私は撮る側でいい」
「じゃあ五人」
ノエルは小型の記録晶を出した。
フィアナが顔をしかめる。
「何のため」
「忘れた時に見せる」
レイスがすぐ言った。
「それは嫌」
ノエルの手が止まる。
「ごめん」
「記録が嫌じゃない」
フィアナは言った。
「忘れた私へ『ほら、こんなに仲良かった』って突きつける使い方が嫌」
「じゃあ」
「今の私たちが、今撮りたいなら撮る」
ノエルが考える。
「私は撮りたい」
「俺も」
グラン。
「研究用ではなく?」
レイスがルナを見る。
「個人的記録としてなら」
「言い方が硬い」
「撮りたいです」
フィアナがレイスを見る。
「あなたは」
「撮りたい」
「じゃあ撮る」
五人で店の壁際へ並んだ。
ミラが記録晶を持つ。
「もっと寄って」
「狭い」
グラン。
「あなたが大きい」
ノエル。
「俺の責任か」
「半分」
フィアナがレイスの隣へ来た。
肩が触れる。
レイスは何も言わない。
「笑って」
ミラ。
「急に言われると無理」
「レイス、顔硬い」
フィアナ。
「フィアナも」
「私は普通」
「二人とも硬い」
ノエルが笑う。
その笑いにつられて、レイスも笑った。
記録晶が光る。
一枚。
「もう一枚」
「何で」
「最初の、グラン目つぶってた」
「嘘だろ」
「本当」
二枚目。
今度はフィアナがレイスを見ていて、正面を向いていなかった。
「もう一枚」
「何で!」
「フィアナが」
「消して」
「嫌」
「ノエル」
「個人的記録」
食堂に笑い声が残った。
レイスは、その場で写真を確認しなかった。
残すことは、未来の自分を縛ることではない。
今日あったものを、今日あったまま置いておく。
それだけでいい。