「記録することと、誰に開示するかは別問題です」
「研究者っぽい」
「研究者です」
フィアナが初めて少し笑った。
笑った顔を見て、レイスの胸が痛む。
この表情を、明日には知らない人の顔として見るかもしれない。
そう考えた自分が嫌だった。
今の彼女を、未来の喪失として見るのは違う。
「写真、撮る?」
ノエルが急に言った。
「何で」
「今の五人」
「六人です」
ミラが厨房から言う。
「入る?」
「私は撮る側でいい」
「じゃあ五人」
ノエルは小型の記録晶を出した。
フィアナが顔をしかめる。
「何のため」
「忘れた時に見せる」
レイスがすぐ言った。
「それは嫌」
ノエルの手が止まる。
「ごめん」
「記録が嫌じゃない」
フィアナは言った。
「忘れた私へ『ほら、こんなに仲良かった』って突きつける使い方が嫌」
「じゃあ」
「今の私たちが、今撮りたいなら撮る」
ノエルが考える。
「私は撮りたい」
「俺も」
グラン。
「研究用ではなく?」
レイスがルナを見る。
「個人的記録としてなら」
「言い方が硬い」
「撮りたいです」
フィアナがレイスを見る。
「あなたは」
「撮りたい」
「じゃあ撮る」
五人で店の壁際へ並んだ。
ミラが記録晶を持つ。
「もっと寄って」
「狭い」
グラン。
「あなたが大きい」
ノエル。
「俺の責任か」
「半分」
フィアナがレイスの隣へ来た。
肩が触れる。
レイスは何も言わない。
「笑って」
ミラ。
「急に言われると無理」
「レイス、顔硬い」
フィアナ。
「フィアナも」
「私は普通」
「二人とも硬い」
ノエルが笑う。
その笑いにつられて、レイスも笑った。
記録晶が光る。
一枚。
「もう一枚」
「何で」
「最初の、グラン目つぶってた」
「嘘だろ」
「本当」
二枚目。
今度はフィアナがレイスを見ていて、正面を向いていなかった。
「もう一枚」
「何で!」
「フィアナが」
「消して」
「嫌」
「ノエル」
「個人的記録」
食堂に笑い声が残った。
レイスは、その場で写真を確認しなかった。
残すことは、未来の自分を縛ることではない。
今日あったものを、今日あったまま置いておく。
それだけでいい。