五人は朝食を済ませ、予定通り北西観測所へ向かった。
古い石畳は途中から草に埋まり、道の両側には青い花が増えていく。
花弁が半透明で、朝日を透かすと結晶のように光る。
「記憶草」
ルナが言った。
「名前、そのままなんだ」
「正確には《忘刻花》。でも俗称は記憶草です」
「触ると昔のこと思い出す?」
「触ると手が青くなります」
「だけ?」
「三日くらい落ちません」
「じゃあ触らない」
ノエルが一本摘んだ。
「聞いてた?」
「聞いてたから触った」
「何のために」
「レイスが嫌がるかなって」
ノエルが花を近づける。
レイスが避ける。
「やめろ」
「反応よし」
そのやり取りを見て、フィアナが笑う。
普通の朝だった。
レイスは、その普通さを壊したくなかった。
だから最初の異変に気づくのが遅れた。
道の先に、小さな荷車が倒れていた。
車輪が外れ、荷物が斜面に散らばっている。
近くに人影はない。
「止まって」
ノエルが片手を上げる。
全員が止まる。
グランが盾を前へ。
フィアナが剣の柄へ手を置く。
ルナは腰の記録晶を取り出す。
レイスだけ、一歩遅れた。
遅れたはずだった。
それなのに、次に起きることを身体が知っていた。
「伏せて!」
叫んだのはレイスではない。
フィアナだった。
彼女はレイスの襟を掴み、ほとんど投げるように地面へ引き倒した。
その頭上を、銀色の細い矢が通過する。
一本。
二本。
三本。
木の幹に刺さる。
遅れて、斜面の上から鐘骸獣が飛び出した。
「左二!」
レイスが叫ぶ。
フィアナはもう動いていた。
左へ二歩。
そこで剣を振る。
ちょうどそこへ獣の首が入ってくる。
一閃。
青黒い殻が割れた。
「後ろ!」
今度はフィアナが叫ぶ。
レイスも、考える前に右へ転がっていた。
背後の地面へ槍が刺さる。
見えていなかった。
けれど避けた。
グランが二体を盾で弾き、ノエルが木の上から短剣を落とす。ルナが記憶晶を起動し、獣の胸部に走る薄い線を指した。
「そこが核!」
フィアナが踏み込む。
レイスも同時に走った。
彼女が右。
自分が左。
説明していない。
合図もない。
なのに、互いの動きがわかる。
フィアナの剣が獣の注意を引き、レイスがその下へ潜る。
懐中時計の鎖を握ったまま、拾った石を核へ叩きつけた。
割れた。
獣が崩れる。
静かになった。